みゆきの桃色吐息 1996.8.2

 今は昔、(怪しい?)商社に勤めていた友人に電話したとき、彼は日照りを憂い、俺は女日照りを嘆いた。すると、「それならとっておきの女の子がいるから紹介してやるよ」という。
 翌週の夕方、山手線は○○町の駅前で待ち合わせた。少し歩いて小さなパブに入った。(店の名を何故か覚えているが、今もあるだろうか。)彼が女の子を2人連れてくる約束だった。店の中にそれらしい女の子が2人がいたが、他に彼の同僚だという野郎も2人いた。「おんや?」とは思った。
 女の子のひとりは、Winkの相田章子似の頬が少しぽっちゃりした感じで「みゆき」と呼ばれていた。もうひとりは、勝ち気そうなしゃくれ顎のせいか、どことなく某芸能人に似ている。で、即座に付けたあだ名が「白鳥 邦子」。
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 最初、俺に「みゆき」を紹介してくれるのだと思い、彼の友情に厚く感謝した、、、が、どうやら、彼は「みゆき」を誘い出す口実に、「白鳥 邦子」と俺をダシに使おうとして、それを見破った同僚2人がついて来たようだった。
 俺の前には、「白鳥 邦子」が座り、「みゆき」は、彼と彼の同僚2人で完全にブロック。
「罠だ! 陰謀だ! 策略だあ!。。。まっ、いいか。この場限りだし」で、学生の頃培ったコンパ芸を幾つか披露したりした。(結構、当たる手相と適当な血液型占いなど。)
 「白鳥 邦子」は、ほとんど何も食べず、水割りを飲むピッチが妙に早い。そして、次第に豹変してゆく。とうとう、氷だけのストレートをがぶ飲みし始めた。。。
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「あたしって、誤解されやすいの。やっぱり、美し過ぎるからかしら?」(としなを作り同意を求める間)
「そっ? そだね」
「ふぅ〜ん。お酒飲まないのぉ? そっかぁ。こぉ〜んな美人を目の前にして緊張しているのでしょー?」
「すっ、少しね」(なんなんだぁ? この女は?! ムッとした視線を友人に送る。友人たちは笑っている。)
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 酒乱「邦子」の主張は、「あたしは美しい。誤解されやすい。美しいことは罪なんだ」というステレオタイプなもので、当時流行っていたポジティブシンキングが高じて歪な多幸症状を引き起こしてるように思われた。──とは、事後的にただ適当な言葉を繋いでみただけで、その時は、自意識過剰の勘違い女と思っただけだったろう。しかし、店内は薄明かりだった。案外、上背があり立ち姿は華やかな娘だったのかもしれない。
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 世の中には、誰もが恋するタイプの女性がいるものだ。けして美人タイプでなくても。私もそうした女性に必ず好意を抱く。思えば、両手に余る愚行の末に、そうした好意は好意のままにしておいた方が良いと悟っている。かつて、清楚、可憐、儚さげな女性に惹かれたことがあったが、それは、私の痩せ衰えた内なるアニマ(女性像)を相手に投影しただけの自己愛に過ぎなかった。
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 遡るに、今思えば、どう考えてみても無理筋のインテリ(と後で知った。掛け値なしの)美女に図らずも惚れたことがあったが、当時は、酒に酔うと、胸一杯に愛?が満ち溢れる(歳)頃でもあった。彼女と話していると時折、謎々をしているような感じもしたが、楽しく感じていた。だが、私が、与し易いと感じる相手は、私に対して相当なストレスや不満を感じている場合がある、と知っている。。。私は、私がかつて出会い、おそらく歪に口説いた全ての女性の幸せを願っている。
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「ねぇ、好きなひといるのぉ?」(目が虚ろに座っている)
「いると言えばいるし。。いないと言えばいない」
「ねっ、キスしようぉ」(と舌をすぼめて突き出す。)
「い、いや、やぶさかではないが」(とトイレに立つ)
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 カウンターの中にいた、ちと可愛いバイトらしきの若い娘が、「邦子」と俺の横に座って、少しほっとする。その子と話し込むと、「邦子」は、テーブルの下で俺の足を爪先で蹴る。。。
 2時間ほど経って、「邦子」が酔いつぶれたの機会に、「明日早いので帰るよ」と帰り支度して、ドアの所で振り向くと、カラオケのマイクを手に「桃色吐息」をスタンバっていた「みゆき」と視線があった。
「少し話したかったね。○○はいい奴だから。」
「わかってるわ!」(少し怒ったように エコー付きだった。)
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 後日、電話で、
「この裏切り者! そうならそうと最初から言っとけ!」となじると、
「まあ、そう怒るなよ。お前とあの子は性格が似てるから、案外巧くゆくかと思ってね。ははは」とのことだった。